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単独インタビュー:大阪取引所新CEO横山氏、JPXの未来を語る


FIAジャパン:大阪取引所社長、東京商品取引所会長へのご就任おめでとうございます。日本最大のデリバティブ取引所のリーダーとしてのご就任ですが、まずは経歴をお聞かせください。


 東京証券取引所(TSE)と大阪取引所(OSE)が統合してJPXが創設される以前の1986年にTSEに入所しました。直前までは情報最高責任者(CIO)として6年間JPXの全システムを見てきましたが、それ以前にも十数年にわたりシステムを担当してきました。

 JPXのシステムを巡っては多くの経験をしてきましたが、そうした中でシステムを強靭化するプロセスに関わったことがCIOの職務をこなしてきたことにつながっていると思います。また斉藤惇元社長の秘書役を2年間勤めましたが、TSEに新しいカルチャーを吹き込んだ斉藤元社長からは営業マインドをはじめ、さまざまな勉強をさせていただいたと感謝しています。



FIAジャパン:いま、一番伝えたいメッセージをお願いします。また、大阪取引所の発展に向けて注力したいことを教えてください。


 安定的に市場を運営することが第一だと考えています。OSEの取引等を司るシステムの安定運用は当然のことながら、「人」の面でのケアが非常に重要です。24時間近くの取引に加え、昨年からは祝日取引も始まるなど職員の負担は軽くないことから、業務の自動化などで負担を軽減し、働きやすくしながらも業務を安定的に動かしていくことが基本です。

 デリバティブ取引の拡大は、JPXの中期経営計画の中でも強く求められているところです。投資家のニーズに即した新しい商品の導入や制度改正により、より利便性の高い市場にしていくとともに、グローバルな投資家への営業の強化や個人投資家へのプロモーションを通じた国内の投資家の掘り起こし等、デリバティブマーケットの拡大を図ってまいります。



FIAジャパン:2020年7月、TOCOMの上場商品はドバイ原油先物などのエネルギー関連商品を除き、OSEに移管されました。エネルギーは引き続き経済産業省(METI)の管轄する商品先物取引法下に置き、金先物を含むOSEへの移管商品は金融商品取引法の監督下に置かれるようになりました。2つの異なる規制と取引所メンバーシップおよび規則はエネルギー市場に参入する一部のプレーヤーにとっては難しい問題となっています。このことをどう考えますか。解決方法はありますか。


 一般論として、一つの法律の下で市場運営を行う方が市場参加者の皆様にとってシステム面や事務面でも効率が良く、利便性が高いことから、将来的には一本化の方向で働きかけていきたいと思っています。

 一方で、現状はこれまでの経緯やさまざまな理由があって二つの取引所に分かれており、その中で大阪取引所と東京商品取引所がそれぞれの特徴を活かして効率よく市場運営を行っています。

 まずは、2020年7月に大阪取引所に移管した商品(貴金属・ゴム・農産物)の取引を伸ばしていくことが金融商品取引法下での商品デリバティブの実績を示すためにも重要であり、それに向け努力していきます。



FIAジャパン:世界の取引所ではビジネスモデルの変化が起きています。収益の多くがデータサービスに傾き、取引手数料収入は減少しています。OSEでもデータサービスの割合が高まると考えていますか。そうだとしたら、どのような方法を考えていますか。


 はい、私たちJPXグループとしては、さらなるデータサービスの拡大を期待しています。

証券分野でのデジタル化やデータサービスの拡充は、2022年から始まったJPXの「中期経営計画2024」でも優先課題として明記されています。私たちのゴールは、グローバルな総合金融・情報プラットフォーム「G-HUB」の構築です。

 このゴールを達成するために、2022年4月1日に、新たなJPX子会社であるJPX総研(JPXI)が事業を開始しました。JPXIのミッションは、JPXグループの指数・デジタル・情報関連サービスを引き受け、G-HUB構築の中核となることです。JPXIでは、種々の新たな指数の開発に取り組んでおり、また、新たなデータコンテンツやデータ配信プラットフォームを検討中です。

 デリバティブのデータコンテンツに関していえば、例えば、昨年に、オルタナティブデータ提供サービスのシステム統計データを更新しました。これにより、潜在的な顧客のニーズに期待に応えることができるものと思います。



FIAジャパン:年初に起きた ION Trading へのサイバー攻撃など、ここ最近はグローバル市場に影響を与える重大なサイバーセキュリティの問題が発生しています。これについてのご意見をお聞かせください。もし日本で規制を導入するなら、どのような規制が必要でしょうか。


 先般のION Trading へのサイバー攻撃が市場へ与えた影響からも分かるように、金融インフラの一翼を担う当社としても、サイバー攻撃への対処は極めて重要な経営課題の一つと認識しています。

 サイバー攻撃の高度化・多様化が著しく進んでいる中においても、安定的な市場運営を達成するために、当社ではサイバーセキュリティのさらなる対応計画を策定し、継続的な対応の強化を図っています。

FIAジャパン: 昨年9月、OSEは祝日取引をはじめましたが、それに先立ち、FIAとFIAジャパンのメンバーは複数の論点について、OSEと議論を交わしました。これまでのところ、市場参加者からはどのような反応がありましたか。


 デリバティブの祝日取引開始に向けた検討においては、FIAおよびFIAジャパンから有用なコメントをいただき、大変参考になったことを最初にお礼申し上げます。

 祝日取引は2022年9月23日(金)秋分の日からの開始以降、平日の約2~4割弱に相当する取引が成立しており、当初の期待値(2割程度)を上回る状況となっています。これを受け、当初は祝日取引への参加を見送った証券会社にも顧客のリクエストに応じて参加に転じる先も出てきています。

 今年のゴールデンウィークでは、初めて連続で祝日取引が行われました。連休中、欧米の相場が大きく変動したこともあり、平日の3割を大きく超える取引高となりました。特に大きなトラブルもなく無事に実施することができたことから、欧米の相場変動に対するヘッジ機能を果たせたものと考えています。このような実績を通じて、祝日の多い日本における有用なヘッジツールとして活用が広がっていくことを期待しています。



FIAジャパン:ここ最近の新規上場商品を教えてください。中長期で計画している新規上場はありますか。


 市場参加者のニーズを的確にとらえた新商品を開発し、市場全体の取引を活性化していくことは重要な課題と認識しています。本年5月29日には、TONA3か月金利先物と日経225マイクロ先物・ミニオプションなどが上場しました。

 すでに国債先物を上場しているOSEとしてはTONA3か月金利先物を上場することで、長短金利をともに取引できる利便性の高い円金利市場を実現したいと考えており、長期国債先物と短期金利先物のリスク相殺による証拠金軽減など資金効率面でのメリットを訴えてまいります。日経225マイクロ先物・ミニオプションは、主に個人投資家の利用を念頭に、投資の小口化に対応したヘッジツールを提供することで、デリバティブ市場の参加者のすそ野拡大に貢献していく商品となることを期待しています。

 今後も、投資家や市場参加者のニーズを的確にとらえた新商品の開発、上場により、市場全体の持続的な発展に貢献してまいりたいと考えています。



FIAジャパン:日本の金融市場のいっそうの発展に向けてFIAジャパンが果たすべき役割をどのように考えますか。FIAジャパンが注力すべき領域はあるでしょうか。


 FIAジャパンの強みは、内外の事情に精通するデリバティブのプロフェッショナルが日本市場の拡大のために建設的な議論を行うことだと考えています。

 日本固有の事情と海外のベストプラクティスを踏まえつつ金融業界に引き続き提言を行うことが、日本市場の競争力強化のためにFIAジャパンの役割として期待されていると思います。

 大阪取引所としては、今後もFIAジャパンと緊密に連携し、協力しながら、日本のデリバティブ市場発展に力を尽くしてまいります。


FIAジャパン:ありがとうございました。


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