遠藤俊英(金融庁長官)- 金融庁の重点事項と金融規制について


遠藤 俊英 金融庁長官

遠藤俊英氏は、金融庁の長官。2002年に金融庁へ入庁して以来、監督局長、検査局長、総務企画局審議官等の様々な役職を歴任した。2015年7月から2018年7月までは、監督局長として、銀行、ブローカー・ディーラー、保険会社、預金保険機構などを監督。2014年7月から2015年7月までは、検査局長として、より効果的な手法で金融機関・金融システムの実態把握を深化させるため、オンサイト検査とオフサイトモニタリングを一体化。また、2011年8月から2014年7月までは、総務企画局審議官として、金融システム、金融市場、証券取引所の監督等に関する全体的な政策立案を担当した。

金融庁への入庁前は、国際通貨基金のアジア太平洋局、財政局にて勤務。1982年に東京大学を卒業(法学士)し、1986年にロンドン大学にて経済修士を取得している。


本誌:金融庁の新しいトップとして、今後フォーカスする優先事項は何か。

企業・経済の持続的成長と国民の資産形成等による国民の厚生増大に向けて、「金融育成庁」への動きをさらに加速させるため、これまでの行政の基本的枠組みを維持しつつ、次のような施策に優先的に取り組みたい。まず、技術革新により金融業が急速に変わりつつある中で、我が国で提供される金融サービスが、より向上していくよう、金融庁として「育成」していくことが不可欠。規制・監督と一線を画し、ベンチャー企業等と議論・交流し、フィンテックのトレンド・方向性を探るFinTech Innovation Hubを設置し、得た知見をフィンテック関連の企業の育成につなげていく。また、顧客本位の業務運営については、今年6月に、投資信託の販売会社における比較可能な共通KPIを公表したところ。今後、他の業態も含めて、商品内容の「見える化」に向けて検討を進めていくと共に、利用者から見た金融サービスの実態や現場での窓口営業の実態を調査し、顧客本位の業務運営の深化に向けて、金融機関に働きかけていく。さらに、地域金融については、これまでの健全性の確保と金融仲介機能の発揮に向けた取組みについて、霞が関を離れて、地域金融機関はもとより、広く地域の関係者と、同じ目線で深度ある対話を行うチームを庁内に新しく設置し、地域経済・企業に地域金融がどのように貢献するべきか検討を進める。以上に加えて、

・大手金融機関内のガバナンスの検証

・我が国が議長国を務める2019年のG20における金融面での貢献

・若手職員等を対象に、政策提言を行う枠組みを設けること

等についても、取り組んでいく。


本誌:最近の金融庁の組織再編とその目的についても言及いただきたい。

金融庁は2001年に発足し、不良債権問題等に取り組んだが、その後、金融行政の課題は大きく変化してきた。現在では、金融仲介機能の一層の発揮や家計の安定的な資産形成の促進、急速な技術革新への対応などが、重要な課題となっている。こうした課題の変化に的確に対応するため、組織再編を行った。具体的には、

・総合政策局を新設し、金融行政全体の戦略立案・総合調整機能を強化するとともに、専門分野別の対応能力を強化する、

・企画市場局を新設し、市場機能の強化や技術の進展等に応じた制度等の施策の企画能力を強化する、

・検査局を廃止し、金融機関との継続的な対話を効果的かつ効率的に行うため、オンサイトモニタリング(検査)とオフサイトモニタリング(監督)を一体化する

こととした。

新組織の下で、一層、効果的かつ効率的な金融行政となるよう、職員一丸となって取り組んでいく。


本誌:日本は高速取引(HST)のための規制枠組みを2018年4月に導入した。これは、外国に存在する企業を含む強制的な登録プロセスを初めて導入したことになる。実際、これは初めての管轄を超えた規制が日本で執行されるものである。これを可能とするための課題は何か。

ご指摘の「管轄を超えた規制」については、外国法人に国内拠点の設置義務を課していない規制は、取引所取引許可業者など、他にも例がある。国内拠点を設置せずHSTを行う者については、特に、規制の実効性の確保や、どのようにモニタリングを行っていくかが課題となる。規制の実効性の確保については、無登録者によるHSTの受託を証券会社に禁止しているほか、HSTを行う者が外国法人の場合は、国内の代理人等の設置や、外国当局が我が国の調査協力に応じる旨の保証を登録の要件にするなどにより対応することとしている。また、モニタリングを行うに当たっては、HSTを行う外国法人の国内代理人等を通じて、誤発注防止等の管理態勢など業務の状況等の確認を行っていくとともに、高速取引の実態把握や、取引の傾向等に係る分析等を進めていく。


本誌:登録期限が近付いているが、プロセスはどのように進んでいるか。

改正金商法の施行の際現にHSTを行っている者は、本年10月1日までに登録申請すれば、登録又は登録拒否されるまで引き続きHSTを行うことができる。現在、7者が高速取引行為者として登録済みであり、その他の者についても随時、登録申請及び事前相談が進められている。  

改正金商法施行前からHSTを行っている者については、最終的に60者程度が登録対象になることを見込んでいる。今後とも、HSTを行う者の登録申請及び事前相談に適切に対応していく。


本誌:2014年3月にインタビューをした際には、総務企画局の審議官として金融庁は、多様な金融商品を上場させる総合取引所の早期実現に向けて取り組んでいく、と述べていた。このプロジェクトについて、今日の長官のお考えはどうか。

海外の有力な取引所では、証券・金融、商品取引を1つの取引所で取り扱う総合取引所が主流となっている。日本においても幅広い上場商品をワンストップで取引できる総合取引所が実現すれば、

①これまで海外(シカゴ、ニューヨーク、香港など)で取引をしていた利用者が時差、言語や準拠法を気にせずに国内で取引できるという利便性の向上、

②商品先物取引の流動性が向上し、商品先物市場のテコ入れにつながるとともに、ヘッジ取引や分散投資ニーズを通じて証券・金融取引も拡大すること、

③新たに内外の有力な投資家や仲介業者が国内市場に参入することにより市場の厚みが増すこと、

④その結果として、我が国市場の国際競争力が強化されること

等が期待できる。

本年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」においても、「引き続き、総合取引所を可及的速やかに実現する」こととされており、早期実現に向け、取引所等関係者への働きかけに、積極的に取り組んでいく。


本誌:日本政府および東京都は、日本/東京を国際的な金融センターにするという意図を表明した。この目標を達成するために、どのような障害に取り組む必要があるか。中国のような他の成長市場と比較し、より多くの市場参加者を引き付けるために、強みとしてどのようなメリットを日本は示すことができるか。

本年6月に閣議決定された「未来投資戦略2018」においては、「活力ある金融・資本市場の実現を通じた円滑な資金供給の促進」に向けた取組みの一つとして、「東京国際金融センターの推進」が掲げられているところ。我が国には、約1,000兆円の現預金を含む1,800兆円を超える家計金融資産を有しているという強みがある一方、海外金融事業者の中には、日本での事業を検討しているものの、登録手続きがよく分からず、複雑で時間がかかりそうだというイメージから、拠点開設をためらうものもいると聞いている。これに対し、金融庁では、

・東京都による英文ガイドブックの作成(昨年9月)に協力したほか、

・金融業の登録申請等をスムーズに進める「ファストエントリー」を実現する     ため、昨年4月に「金融業の拠点開設サポートデスク」を開設。東京都等とも相互に連携しつつ、海外金融事業者の信頼を確保しながら、拠点開設のサポートを行ってきた結果、同デスクを通じて、現在まで5社の業登録が完了した。

アジアの成長市場を含め、金融センター間の競争は激化しているが、東京が魅力あるビジネスの場として認知され、世界中から人材、情報、資金の集まる国際金融都市として発展していくよう、こうした取組みを加速させていく。


本誌:FIAジャパンは、創設30周年を迎える。過去2・3年に、我々のJPTGグループは、HSTの規制構築プロセスが進む中で、公式にコメントを出してきた。直近では、我々のメンバーに関心のある仮想通貨の様々なテーマをカバーするために仮想通貨委員会(VCC)を立ち上げたほか、市場開発委員会(MDC)では、日本におけるETFのさらなる発展のために、アセットマネジャー、マーケットメーカーや取引所と協働している。FIAジャパンが、どうすれば、我々の市場を発展させるために最も良くサポートし続けられるかについて、長官はどのようにお考えか。

貴協会は、これまで、金融・資本市場の健全な発展に向けて、当局との意見交換や、市場・規制動向に関する情報発信等に精力的に取り組んで来られたと承知している。特に、

・総合取引所の実現に向けた取組みについては、従来から力強い支援をいただいているほか、

・高速取引に対応するための制度整備に当たっては、実務的な観点からの意見・質問をいただき、制度の円滑な施行に貢献いただいたと認識している。

金融・資本市場の発展に向けて実効性ある金融行政を実現していくためには、金融庁の職員も、金融取引の実態や問題の本質を的確に把握するなど、深い知見を蓄積していくことが不可欠と考えている。貴協会は、様々な金融関係事業者からの提言・批判を集約できる立場にあることから、金融庁としては、今後とも、意見交換の場などで、そうした現場の声を届けていただくことで、金融・資本市場の発展に向けて建設的な議論を行っていくことができると考えている。


本誌:ありがとうございました。