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TOCOM電力先物取引2022年レビュー

東京商品取引所(TOCOM)の電力先物取引は、2019年9月の試験上場から約2年半が経過した2022年1月に経済産業省から認可を得て4月4日から本上場に移行した。この間、TOCOMでは昨年1月のJEPX電力スポット価格高騰の経験を踏まえ、急激な価格変動に対応するべく、値幅制限の撤廃、DCB(ダイナミック・サーキット・ブレーカー)の拡大、証拠金制度の変更など取引制度の変更を行ってきた。4月の本上場でTOCOM電力先物市場は恒久的な市場となったことから、中長期的な運営の取り組みも視野に、市場利用者のさらなる利便性向上と市場の発展を目指す考えだ。

日本の年間電力消費量は約987TWh(出所:IEA, 2020年)と世界第4位。自由化された単一の電力市場としては世界最大ともいわれている。その日本電力市場では1995年以降、段階的な自由化が進展。2016年4月には電力小売事業が自由化され、電力小売ビジネスへの新規参入が相次いだ。

 そうした中でTOCOMは2019年9月に電力先物市場を開設。JEPX電力スポット価格の変動リスクにさらされた電気事業者は、価格ヘッジや相対取引に伴う信用リスク回避を目的としてTOCOM市場への参入を始める一方、海外の電力トレーダーたちも取引に参加している。


2021年(暦年)のTOCOM電力先物市場の年間取引高は、取引高ベースで約2.7万枚(2020年比1.8倍)、電力量ベースでは15億kWh超(同1.8倍)、取組高は3億kWh超(同1.3倍)となり、総約定代金ベースは236.5億円(同約4倍)に拡大した。また、上場当初13社だった取引参加者(法人)は144社(2022年3月末)へと約11倍に増加しており、大手電力会社も徐々に取引を開始している。また、海外トレーダーの参入も増加しており、毎月の取組高に占める割合は15~20%程度で推移している。



市場拡大にはいくつかの理由がある。


ひとつは2020年末から翌年1月にかけて生じたスポット価格の急騰を経て、電気事業者による電力先物取引を用いたヘッジ意欲が急速に高まったこと。電気事業者の間では、電力先物取引が電力自由化における有効なリスク管理ツールとしての認知度が向上した。


2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画(The 6th Strategic Energy Basic Plan)および資源エネルギー庁の「電力市場リスクマネジメントガイドライン(地域や需要家への安定的な電力サービス向上に向けた市場リスクマネジメントに関する指針)」では、電力先物取引がリスク管理ツールとして記載されている。電力先物取引は、政府によって政策ツールとして位置づけられた初めての上場商品であり、そのことが経済産業省所管物資の中で、初めての本上場の前倒しにつながったものと思われる。


電力市場は、この2年半で大きく変貌している。上場当初は、再エネの流入拡大、新型コロナ感染拡大による電力需要の急減、原油等燃料価格の下落の影響もあって電力価格も下落の一途をたどっていた。しかし、2020年12月中旬以降潮目が変化し、昨年1月のJEPX市場の混乱の後も、昨秋以降の欧州ガス市場の混乱や足元のロシアのウクライナ侵攻等に起因する原油・LNG・石炭等の発電用燃料価格の高騰、円安の進行など、複合的な要因が電力価格を大きく押し上げ、電気事業者を取り巻く環境は厳しさを増している。



このような事業環境の中で、TOCOM電力先物市場は価格発見機能とリスクヘッジ機能の提供を通じて電気事業者の経営安定化に資するべく、市場利便性向上に向けて多くの施策を実行してきた。2022年4月には電気事業者の要望を踏まえて取引限月を連続15限月から24限月に拡大した。電気事業者は現物市場での入札にあたって、より長期のTOCOMフォワードカーブの値を参考にしたいとの要望していた。また近年は先物市場で次年度ものの取引タイミングを早めていたことからも取引限月の延長を求めていた。


ほかにも立会外取引の円滑化と透明性の向上、マーケットメーカーの拡充、LNG先物(2022年4月4日上場)と電力先物の証拠金相殺などの要望などが届けられている。TOCOMは市場利用者の利便性を高めるための施策を通し、エネルギー先物市場の発展につなげていきたいと考えている。


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