JPX CIO澁谷裕以氏 IT 分野におけるビジョンを語る

澁谷裕以(しぶや・ひろゆき) 株式会社日本取引所グループ 常務執行役、CIO

 1977 年に東京海上火災保険㈱(現東京海上日動火災保険㈱)に入社し、その後IT 部門を中心に38 年間にわたるキャリアを築く。その間、東運京 海上日動火災保険㈱理事、同社執行役員、東京海上ホールディングス㈱執行役員及び同社顧問を歴任。2015 年3 月に㈱日本取引所グループ顧問 に就任。2015 年6 月より㈱日本取引所グループ常務執行役、CIO(現任)に就任。1977 年早稲田大学卒。IT を競争力の源泉・武器としてアジア一の取引所を目指す。

IT を競争力の源泉・武器としてアジア一の取引所を目指す

本誌:2015 年6 月にJPX のCIO に就任されましたが、JPX グループのIT 分野におけるビジョンをお聞かせください。


澁谷:JPX は”Your Exchange of Choice”、アジア地域で最も選ばれる取引所という将来ビジョンを掲げておりますが、その実現に向け、IT の果たす役割はますます重要なものになっています。現代の取引所では、売買、清算、各種情報配信等、それら全てにシステムが関係しており、IT は取引所ビジネスを推進し新たなマーケットを創造していくうえでの基盤となっていることから、これまで以上にビジネスとIT の両輪を効率良く組み合わせて運用・進化させていくことが求められています。JPX は東京証券取引所グループと大阪証券取引所が2013 年1 月に経営統合して誕生し、本年3 月に将来ビジョンの実現に向けた最初の3 か年が終了します。この3 年間に、市場参加者の皆様の御協力を頂きながら現物株式売買のarrowhead への統合、デリバティブ取引のJ-GATE への統合、清算システムの統合を安定して完了してきました。これらは経営統合に伴う市場基盤の整備の一環として実施してまいりましたが、欧米はもとよりアジアの各市場においてもシステムの高度化等が進んでおり、国際的な市場間競争は更に加速しています。こうした中JPX ではアジア地域で最も選ばれる取引所を目指しており、グループ全体としてIT を競争力の源泉・武器として位置付け、日々進化する技術を最大限活用し、信頼性・利便性の高いマーケットインフラの構築とサービスの提供を推進しています。そして、JPX の将来ビジョン実現に向けて、昨年9 月には、グローバルな取引所に求められている要素を踏まえ、信頼性の向上、利便性の向上、システム処理能力の向上という3 つの基本方針に沿って、現物株式の売買システムであるarrowheadのリニューアルを問題なく実施いたしました。その結果、市場参加者の皆様からは非常に高い評価をいただいております。加えて、本年7 月19 日に次期デリバティブ売買システム(次期J-GATE)の本番稼働を予定しております。

JPX の基幹システムであるarrowhead 及びJ-GATE を継続して安定的に稼働させることで、日本の株式・デリバティブ市場の基盤をより盤石なものにしていきたいと考えています。また、2014 年に統合した清算システムについても次期清算システムに向けたロードマップの策定を行ってまいります。


JPX は、マーケットインフラとして高い信頼性・安定性が求められながら、同時に市場参加者のニーズに応じて利便性向上も実現していく必要があり、それを実現するIT は取引所ビジネスの根幹を支えていると言えます。これからもJPX のIT を、競争力の源泉・武器として、より一層高いレベルに引き上げていきたいと考えています。

本誌:昨年9 月のarrowhead のリニューアルにおいては、信頼性や利便性の向上を基本方針として掲げていましたが、本年7 月に稼働予定の次期J-GATE の開発方針があれば教えてください。


澁谷:一昔前と比べてシステムの処理速度の速さだけを競う時代ではなくなりつつあり、昨今はいかに市場を安定的に運営していくか、また、そのためにどのようなシステム的な手段を講ずるかが求められています。そのため次期J-GATE においても信頼性と利便性の向上を基本方針として掲げています。市場の信頼性の向上のために、寄付き前及び引け前1 分間の注文の訂正・取消しを認めない時間帯であるノンキャンセルピリオドをシステム的に設定することや、Trade Guard というシステムで投資家毎に注文の板登録前・後チェックを行う機能を取引所が提供します。また利便性の向上のために、取引所の24 時間化というものを念頭におきつつ、これまで午前3 時までとしていたナイトセッションの立会時間を午前5 時30 分まで2 時間 30 分延長します。この変更により、JPX のデリバティブは、約20 時間取引可能となります。一方でデリバティブは市場のボラティリティによって注文・約定件数が大幅に増加する傾向が顕著にみられるため、キャパシティの管理にも重きを置いています。JPX のデリバティブ市場は10年前の5 倍の取引高を誇る市場に成長していること、デリバティブ市場の3 割から4 割の取引高を占めるナイトセッションの取引時間を延長すること及び今後新商品等の追加が続くことを考えると、足元の状況だけでなく、将来のマーケット動向も適切に捉えながらキャパシティ管理を行っていきます。

サイバー攻撃は大きな脅威、常に最新のセキュリティ対策で対応

本誌:昨今、新しい技術としてブロックチェーンが注目されており、海外取引所では出資や買収の動きが見られますが、これについてどのようにお考えですか。

澁谷:ブロックチェーンについては、私が1990 年代の始めに、初めてインターネットのプロトコルであるTCP-IPに出会った時と同じような衝撃を感じます。それまでのヒエラルキカルな技術から、オープンで水平展開に相応しい技術という観点で、両者は本質的に同じものを持っていると思います。TCP-IP がその後世界を制したように、ブロックチェーンも大変な影響力を及ぼすことになるでしょう。JPX としても、この技術をどのような分野で、どのように活用できるかは早急に検討する必要があると考え、実証実験を開始いたします。その中で、JPX にとっての可能性を見極めていきたいと思います。


本誌:サイバーセキュリティーについても大きな注目が集まっていますが、JPX としてどのような対応をお考えでしょうか。


澁谷:マーケットインフラとしてIT が非常に重要な位置付けにある取引所にとって、大きな脅威のひとつです。昨今報道等にもあるように、サイバー攻撃の手法は日々進歩しており、様々な企業・組織でホームページがダウンするなどの事例が出ています。可能な限りマーケット運営を継続することが使命であるJPX にとってはサイバー攻撃に対しても、適切な対応が求められると考えており、IT を活用した入口・出口対策だけに限らず、情報管理といったルール面からの統制なども含め、継続的にセキュリティ強化策を講じています。今後も、攻撃の高度化・大規模化などサイバー攻撃の脅威はますます大きくなっていくと思われ、これまで以上にJPX のセキュリティ態勢を強固にし、常に改善を図っていく考えです。

多様な商品の上場をサポートし信頼性・利便性の高いシステムを提供

本誌:昨年のチャイナショックを受けて、アジアの中での日本の注目度が高まっています。加えて、日本政府は東京都及び規制当局等と協調し、東京国際金融センター構想を進めており、また、JPX はアジア地域で最も選ばれる取引所を目指しています。JPX のアジア戦略において、ITが果たす役割としてどういったものを考えていますか。


澁谷:東京市場の国際金融センターとしての地位向上のためにJPX としてできることは、国内外の投資家に対して識しています。また、JPX のアジア地域で最も選ばれる取引所というビジョンの達成にあたり、株式・デリバティブの両新システムを活かしながらどのような商品ラインナップやサービス展開を実現できるかが課題です。そのような中、私自身はIT という側面から、多様な商品の上場をサポートし、市場参加者にとって信頼性・利便性の高い システムを提供することを通して市場の安定的な運営を支えていきたいと考えています。また、東京商品取引所が次期J-GATE の利用を開始します。総合取引所構想について特に決まったことはないですが、複数の取引所が同一の取引プラットフォームを利用することになるので、市場参多様な商品を取引できる場を提供していくことであると認加者のシステム投資や接続に必要なコストの削減につながると考えます。その結果、市場参加者の市場参入に係るシステム的なハードルが引き下げられ、金融デリバティブ及び商品デリバティブ両市場の活性化につながると期待しています。つい数年前まで東京証券取引所・大阪取引所・東京商品取引所ではデリバティブ取引に関して別々のシステムが利用されていたことを考えると、市場参加者の皆様にとって、一連のシステム統合等の変革はとてもポジティブな変化であったのではないかと考えています。


本誌:ありがとうございました。