東京証券取引所(以下「東証」)では、取引所ならではの温室効果ガス削減への貢献策として、カーボン・クレジット市場の創設に向けた諸準備を進めてきたが、この度、2023年10月11日にカーボン・クレジット市場を開設した。
2022年2月に、経済産業省から「GXリーグ基本構想」 が公表されたことを踏まえ、東証は2022年3月、経済産業省から委託事業「令和3年度補正カーボンニュートラル・トップリーグ整備事業委託費(カーボン・クレジット市場の技術的実証等事業)」を受託し、2022年9月22日から2023年1月31日まで試行取引を実施した。
その後、「GX実現に向けた基本方針」が2023年2月7日に閣議決定されたが、この基本方針において「『成長志向型カーボンプライシング構想』の実現・実行」が掲げられ、カーボンプライシングの制度設計の一環として「排出量取引制度」(以下「GX-ETS」という。)の導入が掲げられた。
排出量取引制度は2023年度から試行的にスタートし、2026 年度からの本格稼働においては、政府指針を踏まえた削減目標に対する民間第三者認証、目標達成に向けた規律強化(指導監督、遵守義務等)などが検討される予定。本格稼働では、上限価格と下限価格の組合せによる価格帯を示す制度設計が提示されているところ、その価格帯の考慮要素の一つとして、「2023 年度からの創設を目指すカーボン・クレジット市場での取引価格」を踏まえて設定するとされた。
この度の東証におけるカーボン・クレジット市場開設は、この方針を受けたものであり、社会全体で効率的な排出削減を実現するための第一歩である。
東証のカーボン・クレジット市場ではJ―クレジットを扱っている。J―クレジットは、日本国内において省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用、適切な森林管理等の温室効果ガスの排出削減または吸収量の増加につながる所定の事業(プロジェクト)を実施した場合の温室効果ガスの排出量と、プロジェクトを実施しなかった場合の排出量との差分をクレジットとして国が認証したもので、いわゆるベースライン&クレジット型の排出量取引になる。
J―クレジットの用途は、球温暖化対策推進法や省エネ法に基づく報告への利用等に加え、GX-ETSにおける目標達成手段の一つとしても位置づけられている。クレジットの主な創出者は中小企業や地方公共団体、主な購入者は大企業と想定されている。
これまでは、J―クレジットの売買は相対取引もしくは政府による入札販売により行われていたが、東証におけるカーボン・クレジット市場の開設により、取引所での売買が可能となった。
制度要綱は、図1のとおり。J―クレジットの創出量及び流通量の現状を踏まえ、立会の方式は、株式市場のようにザラバ取引を行わず、需給を集約して約定成立の可能性を高めるため、午前、午後それぞれ1回の板寄せを実施する節立会となっている。
注文の種類は、注文量の厚みが薄いことが想定されたため、誤発注及び価格の乱高下抑止の観点から成行注文は導入せず、指値注文のみである。
取引単位は、政府保有分の入札販売では最低入札数量を1,000t-CO2以上としているところ、多様な参加者確保と、約定成立の機会を増やす観点から、1t-CO2としている。決済日は、決済リスク削減の観点から株式市場は決済期間を短くT+2としているが、カーボン・クレジット市場については、決済業務に不慣れな事業会社が直接市場に参加すること、さらには現行のJ―クレジット登録簿システムの機能を踏まえつつ、実務的に可能な最短の期間として約定日から起算して6営業日後(T+5)となっている。
図1 東証カーボン・クレジット市場制度概要
・参加者と売買状況
カーボン・クレジット市場の参加者は2023年12月6日時点で243者となっているが、実証時の最終的な参加者数183者と比べて60者増えたことになる。また、その業種属性は図2のとおりであるが、大きく増えた業種は電気・ガス業、次いで金融・保険業、次に商業である。実証時と比べ、再エネ事業者や大量排出事業者、金融サービスの側面からの関心の高まりが表れている。
図2 市場参加者の状況
また、取引状況については、市場開設来2023年12月19日までのところでは、図3のとおりである。省エネ、再エネ(電力)、森林の売買の区分において約定が成立している点は実証時と同様である。また、売買の中心についても、実証時同様、省エネと再エネ(電力)である。なお、実証時には政府が保有するJ―クレジットが直接市場で売却が実施されたが、当該政府保有分の売却実施前の期間の1日平均売買高は166トンであったところ、1日平均売買高は1,571トンと増加している。
図3 市場開設後の売買の状況(10月11日~12月19日)
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